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ロシアの卵かけ幼女(下痢気味)

ブーン系とか、小説とか、いっぱい書きたいです。

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( ^ω^)ブーンに限らず復讐するようです 第03話

2010-04-18
かぎふく
38 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:22:48.37 ID:Ct45RthQ0
第03話 女と名無し


鉄の匂いが漂う空間がある。
窓は一つもなく、鉄製棚が壁際に佇むそこは、小さな部屋だ。

電灯すらつけていない部屋の中を、一つの光源が淡く照らしていた。
それは奥に設置されたPC端末のモニターで、画面中央に『ネットワークを切断しました』というメッセージがある。
しかしそれもすぐに消え、今度は画面端に一通のメールが届いたことを知らせるウインドウが浮いた。

(   )「…………」

マウスを操作し、メールボックスを開いたのは黒髪の男。
モニター画面の光で照らされる顔は、しかし長めの前髪と俯きによって判然としない。

(   )(『Deleter』。 大層な名を付けてもらったものだ。
     そして――)

暗号化されているメールを復号化する。
黒いウインドウが浮かび、高速で白い文字が流れていくのを眺めつつ思うのは、

(   )(――反企業組織ナドラ、か)

39 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:25:04.02 ID:Ct45RthQ0
一時間にも満たない短い会議だったが、それでも解ったことがいくつかあった。

まず、ナドラの作戦行動を決定する権限をフォックスが握っているということ。
貴族連中に有用な人材がいないのか、彼が口八丁で手にしたのか。
ともあれ今のナドラは、フォックスがいなければ成立しない構成になっていそうだ。

エーラニを裏切った男、フォックス。
この男についての情報は少なく、未だはっきりとした正体は掴めていない。

代表者という立場までにいた彼が、どうして貴族側へと寝返ったのか。
そして何故、『裏切り者』でありながらナドラを動かせるほどの権力を与えられているのか。
前者はともかく後者の疑問については、

(   )(所詮、浅はかな貴族が集って作った組織だから……ということか?
     それとも何か別の……)

だが、現状で思い当たるものはない。
今持っている材料で答えを導き出すのは不可能ということなのだろう。

それ以上考えることを諦めた男は、あの会議の場にいたフォックス以外の五人について思い出す。

40 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:27:48.20 ID:Ct45RthQ0
『Nobleman』は理知的で冷静、貴族主義の男だった。

『Gold Empress』は、女であることと、話し方に貴族的な特徴があったことしか解らない。

『Origin』は、短絡的な男で、貴族に対して特に執心しているようだ。

『Mercenary』は男性、寡黙かつ皮肉屋な部分が見え隠れしていた。

そして、『Samurai』は――


(   )(――十中八九、流石兄者だろうな。
     ここしばらく表に姿を見せていなかったが、フォックス側についていたか)

ナドラが現れてから、エーラニは軍事関係の情報規制を強く敷いていた。
特に所属兵騎の動向が掴みづらく、未だに名前や外見すら解らない兵騎も幾人かいる。
今回のことで流石兄者の存在を知れたのは幸いだった。

とにかく今、必要なのは情報だ。

誰が、何処に、いつ、何故、そうしているのか。
それらを知ることで、何も見えない闇に満ちた未来を部分的に照らすことが出来る。
見える部分が多ければ多いほど、こちらの進路もとりやすいというものだ。

(   )(さて……)

メールの復号化が終わったようだ。
クリック一つでメールを展開し、画面に表示する。

41 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:31:34.62 ID:Ct45RthQ0
(   )「…………」

思っていた以上に理不尽な内容ではなかった。
『Deleter』に下された任務は兵騎の暗殺であり、それ自体は一言で済む。
彼が『理不尽ではない』という感想を持ったのは、付随する情報があったからだ。

ターゲットの情報や位置、時間帯毎の周辺警備の動き等々。

細かいところまで本当によく調べられている。
向こうの提案する作戦行動プランも、特にケチをつけられるような箇所は見当たらない。
こちらのやり方を事前に知らせていたためか、それに沿った理想的な計画と仕上がっている。


――不自然な程に、だ。


(   )(貴族連中が、ここまで情報を集めたのか……?)

傲慢、怠慢などで知られる彼らの仕事とは思えない。
だとするなら、

(   )(…………)

やはりナドラは、『貴族とは別の何か』を抱えている。

43 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:34:25.19 ID:Ct45RthQ0
確定的な証拠はなく、単なる勘違いかもしれないし、
貴族の情報収集力がこちらの予想より高いだけなのかもしれないが、
それらを考えても尚、彼は裏側に潜む何かの気配を感じ取れずにはいられなかった。

フォックスの件もある。
そういう方向へ考えても良さそうだ。

(   )(当たり、かもしれないな。
     こちら側の方が動き易いと踏んでいたが、さて、これがどう出るか……)

これ以上は考えても仕方ない。
現時点で集められる情報は出来る限り集め、吟味もした。
あとは、状況が動いていく中で判断していけば良い。

それよりも、今はやるべきことがある。
ナドラの一員となった以上、その道に準じて動かなければ。

胸の内に秘める目的は、限りなく近くにありながら、果てしなく遠いのだから。

(   )「……?」

任務通達メール内容に、まだ続きがあった。
これ以上の情報があるのか、と思いつつスクロールしていくと、
画面に表示されたのは以下の文であった。

44 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:37:56.67 ID:Ct45RthQ0
:最重要注意事項
:以下の者に遭遇した場合、その交戦は厳禁とする。

:エーラニ所属 ツン 兵騎
:企業エーラニの誇る現最強兵騎。
:常に二人一組で行動し、反企業組織を大小問わず殲滅して回っている。
:黄金の頭髪に、時代錯誤な鎧を装備しているため、見ればすぐに彼女と解るだろう。
:彼女のパートナーを務めているのは『フサギコ』という黒服の兵騎で、
:危険度で言えば、この男も充分に警戒対象となる実力を備えている。
:この中では最も遭遇率が高く、最重要警戒対象とする。

:エーラニ所属 モナー 兵騎
:ハインリッヒを旧最強、ツンを現最強とするなら、彼は旧々最強である。
:年齢による身体の衰えを理由に戦場へ出ることはなくなったが、
:それでも現在ではエーラニ代表者ショボンの専属護衛を務めている。
:現状での遭遇率はゼロに近いだろうが、彼自身の危険性は未だ極まりなく高い。

:所属不明 ホライゾン 兵騎?
:元はエーラニに所属し、ハインリッヒのパートナーを務めていた兵騎。
:一年前、ハインリッヒの死後、彼女の肉親を誘拐したまま失踪中であり、
:現在における生存の可能性は限りなく低いが、警戒の対象とする。
:ハインリッヒのサポートに徹していたため、戦績評価は全て彼女のものとなっており、
:それ故、兵騎かすらも明らかになっておらず、戦闘能力は未知数。
:万が一遭遇した時は交戦を避けての撤退を推奨する。

:所属不明 名称不明
:目撃情報がありながら正体が不明となっている兵騎が確認されている。
:同時刻に複数の動きがあったことから、おそらく組織的に動いているものと思われる。
:エーラニ、ナドラ両組織に属さない兵騎に出会った場合、外見などの情報を得た後、
:ホライゾンと同様、撤退を絶対とする。

45 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:43:37.52 ID:Ct45RthQ0
:※ 君達それぞれにも個別の目的はあるだろうが、それでも所属はナドラである。
:  その戦闘力を頼った作戦行動が控えている以上、勝手に命を落とすことは許されない。
:  それを忘れずに行動して欲しい。


(   )「…………」

組織に属している以上、死の危険がある勝手な行動を抑えるための文章だ。
ただ、兵騎という人種にありがちな『強い敵と戦いたい』といった欲求はないため、
男にとっては単に危険人物の一覧でしかない。

しかし、男はその文から目を離さない。
全文を読み、そして再び始めから読み直し、ある一点で視線が止まる。

何故、と。

(   )(どういうことだ……? 何故、『それ』がここに載っている?
     慎重に慎重を重ねたはずだが……)

思い直すように首を振り、

(   )(……完璧などありえないということか。
     だが、この様子では尻尾を掴まれているというわけではないようだな。
     慎重を心得る機会が出来て幸いとしておこう)

46 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:46:24.97 ID:Ct45RthQ0
その時だった。
背後にある扉が控えめにノックされる。
反射的にメールを閉じた男は、空いた右手で『それ』を掴み、顔へとやりながら、

(   )「……何だ?」

「あ、寝てたんじゃないんだな。 ちょっといいか?」

扉越しに聞こえた声は女のものだ。
男は僅かに緊張を解き、無言で返す。

その沈黙を肯定と受け取ったのか、扉がゆっくりと開かれた。
金属の軋む音が響き、部屋の外の光が入ってくる。
忍び込むように滑り伸びる光に照らされ、男の顔と格好が明確となった。


( ゚ | ゚)


そして、それを扉の向こうから顔を覗かせるのは、


川 ゚ -゚)


男と同じく黒髪の、少女とも女性とも言える女。
少し躊躇いがちに、しかし目は揺れることなく仮面の男を見ている。

47 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:48:49.18 ID:Ct45RthQ0
( ゚ | ゚)「何か用か、クー」

川 ゚ -゚)「……『仕事』か?」

クーと呼ばれた彼女の目は、今度は部屋の奥にあるPC端末へと向いた。
彼女は、自分がこれを仕事にしか使ってないことを知っている。
誤魔化す術はないと判断して、黙って頷いた。

すると、クーは少しだけ眉を上げ、

川 ゚ -゚)「じゃあ、私も行く」

( ゚ | ゚)「駄目だ」

川 ゚ -゚)「どうして?」

( ゚ | ゚)「……何度も言わせるな。 お前はここで何もせずに居ればそれでいい」

川 ゚ -゚)「あぁ、何度も聞いたな。 私の全てを取り戻してくれる、と」

( ゚ | ゚)「だったら――」

川 ゚ -゚)「――だから私は何度も言い返すよ。
     けれど何もかもを黙って与えられるだけは嫌だ、って」

言葉にあった通り、何度も繰り返されてきたやり取りなのだろう。
男はそれを聞いて口を閉ざし、クーは真っ直ぐに彼を見つめ続ける。

48 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:51:22.04 ID:Ct45RthQ0
川 ゚ -゚)「一年前のあの日から、過去を失った私に貴方は色んなものを与えてくれた。
     今、こうしていられるのは全て貴方のおかげだ。
     だから、その恩を少しでも返していく」

( ゚ | ゚)「……馬鹿なことを。
     お前は、かつて俺が言った言葉を忘れたのか?」

川 ゚ -゚)「…………」

今度はクーが押し黙った。
それを、覚えているからこその沈黙だと男は理解する。
譲歩はしないという意味で彼も口を閉じていると、やがてクーはゆっくり頷いた。

川 ゚ -゚)「……解ったよ、一緒には行かない」

( ゚ | ゚)「それでいい」

話を打ち切るように、背を向けてPCの電源を落とした。
黒いボロボロのコートを羽織り、床に置いていた小型のアタッシュケースを手に取る。

その動きの延長で時計を見れば、既に午前三時を回っていた。

50 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:55:20.85 ID:Ct45RthQ0
( ゚ | ゚)「朝には戻るつもりだ。
     だが、もし七日以上戻らなければ……」

川 ゚ -゚)「解っている。 この隠れ家を捨ててエーラニ本社へ行け、だろう?
     それで、相変わらずその理由は教えてくれないのだな。
     貴方の名前と同じように」

( ゚ | ゚)「……あぁ」

川 ゚ -゚)「……一年も世話になっておきながら、
     まだ貴方のことを『名無し』と呼ぶのは少々心苦しいのだがな」

『名無し』は肯定も否定もしなかった。
代わりに、その話題が去るのを待つかのような沈黙を発する。
条件反射で動く機械に似た反応に、クーは思わず苦笑。

川 ゚ -゚)「そう暗い顔をしなくていい。 慣れたよ。
     名前こそ教えてもらえないけど、それでも貴方と過ごしていたから解るんだ。
     悪いようにはきっとしない、とな」

( ゚ | ゚)「…………」

やはり名無しは返事を寄越さない。
無言で歩き出し、部屋の出口に立つクーを押し退ける。

( ゚ | ゚)「……何でも良心に結びつけようとするな。
     お前が思っているようなものではないぞ、俺も、この世界も」

背後でクーが何かを呟いたが、聞こえはしなかった。

51 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 20:58:36.09 ID:Ct45RthQ0
現在時刻、午前三時半。
仮面の男――『名無し』が姿を見せたのは、静寂に満ちる居住区画の一角だ。

VIPの住人が暮らす居住区画は、そのほとんどが地下に存在している。
言ってしまえば巨大な部屋に街を一つ丸ごと埋め込んだような作りをしており、
区画の端へ行けば壁、見上げれば天井とぶつかることとなる。

しかしそれでは閉塞感があるため、天井には空模様の映像が流れるようになっていた。
今は深い闇色の中、星々が小さく輝いているが、もちろん誰も本物の星空など見たことがなく、
過去に記録されていた資料を頼りに『こういうものだろう』という予想で作られたものに過ぎない。

そんな偽りの空の下、名無しは音もなく疾走する。

広いとはいえ閉鎖された空間。
迂闊な靴音は、配備されている警備システムに引っかかる恐れがある。

( ゚ | ゚)「――――」

と、名無しの足が止まった。
耳に装着しているイヤホンに微かなノイズが走ったからだ。
情報収集用に持ってきていたのだが、今はスイッチを切っていたはず。

つまり自分のものを上回る操作権限を持つ何かが、強制的にスイッチを入れたのだ。
それが何であるかなど、考えるまでもなかった。

小さく舌打ちしつつ物陰に隠れると、それを見ているかのように声が来た。

52 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:01:35.60 ID:Ct45RthQ0
『――聞こえるか?』

女性の声。
それを聞いた名無しは、呆れるような吐息を一つ。
疑問に対する答えは明らかだった。

( ゚ | ゚)「……クー」

『あぁそうだ、私だ。 勝手にPCを使わせてもらっている』

( ゚ | ゚)「…………」

『……怒っているか?』

( ゚ | ゚)「当然だ」

即答すると、イヤホン越しに『むぅ』と唸り声が一つ。
解ってはいたが納得がいかない、という塩梅だろうか。

『……通信によるサポートくらいは良いだろう。 邪魔はしない。
 それに、以前の一回は許してくれたじゃないか』

( ゚ | ゚)「前の時のような情報収集じゃない。
     今回は状況がちがう。 これは『仕事』だ」

54 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:04:38.94 ID:Ct45RthQ0
『だったらサポートは尚更いるんじゃないのか』

( ゚ | ゚)「事前に情報は仕入れている。 俺一人で充分だ。
     それに――」

『それに?』

先を促す声に、名無しは少し躊躇する様子を見せた。
しかしそれ以外に彼女を説き伏せる言葉を持たないのか、やがて静かに言う。

( ゚ | ゚)「……お前はいつか、俺に手を貸したことを後悔する」

『え?』

( ゚ | ゚)「今はそうとしか言えない……だが、必ずそうなる。
     だから止めておけ」

『……止めろ、とは言わないんだな』

( ゚ | ゚)「…………」

『相変わらずよく解らないな、どうしてそんなおかしな態度をとるのか。
 でも、それも教えてはくれないのだろう?』

( ゚ | ゚)「……いずれ話す。
    今は何を言っても無駄だ。 俺の考えは変わらん」

『……今すぐにでもエーラニ本社へ行ってもいいんだけど』

独り言でも言うような呟きに、名無しは一瞬思考を失った。

56 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:07:44.49 ID:Ct45RthQ0
『どうせ私には記憶がない。
 貴方の傍にいるのも、エーラニに行くのも大して変わらないだろうな。
 だったら……そうだな、こんな窮屈な隠れ家にいるよりも……』

( ゚ | ゚)「……クー、俺を脅すつもりか」

『そう思うならそれでも構わん。
 ただ、私としては別に貴方の傍にいる必要はないだけの話であって、
 思い立てばいつでも出て行ける、と。 そういった自分の現状を言ってみただけさ』

一年前の彼女からは考えられない言動だった。
記憶喪失による虚無感が、この一年の間に別の記憶で埋まることで失せ、
それによって訪れた精神的な安定が、今のような確固とした思考を生み出せたのだろう。

ここ最近、彼女が名無しのやることに口出ししてきたり、
何かと注文を出すようになってきたのだが、遂に『仕事』にまで言うようになるとは。

その上、先の脅し文句である。
知識がつき、それを振るう知恵も備わった――いや、どちらかと言えば『回復』してきた証拠だ。
これからもっとやり難くなるだろう、という予測に、名無しは胸中で溜息を吐く。

『どうする?』

( ゚ | ゚)(まったく……これでは昔と変わらんな)

57 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:10:49.91 ID:Ct45RthQ0
結局、折れたのは名無しの方だった。
時間の浪費は避けたかったし、何よりあの時、立場的に不利だったのは明らかに自分である。
そして短い交渉の結果、条件付きでサポートすることを名無しは認めた。
その条件とは、

『……戦闘に入ったら黙れ。 出来れば通信を切れ、か。
 まぁ、解らなくもないが……どうしてかは貴方からは教えてくれないんだろ?』

( ゚ | ゚)「…………」

『むぅ』

それからしばらく無言の移動を続け、辿り着いたのは人気のない区画だった。

『科学プラント地下二層4E区……うん、ここにターゲットがいるはずだ。
 情報に間違いがなければ、の話だけど』

決して広くはない区画だった。
現在位置は南から入ったところだが、目の前には広めの通路が奥へ伸びている。
備え付けの電灯から発せられるダークブルーの光が、薄暗くそこを照らしていた。

( ゚ | ゚)(視界は……何も点いていないよりもマシだな。
     この程度なら走っても問題ないか)

人のいない時間帯、もしくは場所に使われる節電用の青光。
これが点いているということは、基本的に人の目を気にせず動けるという印にもなる。

59 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:13:48.68 ID:Ct45RthQ0
( ゚ | ゚)「……念のため状況を聞かせろ」

『エーラニの警備に波立った気配は無し。 気付かれていない。
 この区画も、改修工事を控えているせいで職員が残ってる可能性は限りなく低い。
 時間を掛けなければ邪魔は入らないと思う。 問題は――』

その言葉の先を、名無しが継いだ。

( ゚ | ゚)「何故、そんなところに兵騎が配備されているのか、か」

『あぁ。 別にこの施設や区画が重要というわけではなさそうだ。
 もちろん金が掛かっている以上、それでも守れるものなら守りたいだろうけど、
 それなら貴重な戦力である兵騎一人を充てるのは妙だ』

クーの推論は的を得ている。
この状況、場所に、貴重な兵騎がいるのは確かに怪しい。

( ゚ | ゚)「……網を張っている可能性はあるな。
    だが、それは確信を持ってやっていることではないかもしれない」

『え?』

( ゚ | ゚)「何かが掛かれば御の字……その程度だということだ」

『だったら――』

( ゚ | ゚)「だが、敢えて行く。 これがナドラの示威行為なら尚更、な」

60 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:16:22.25 ID:Ct45RthQ0
一歩を踏み出す。
クーからの反論はない。
当然のことだ。

この時点で名無しの思考は切り替わっていた。
スイッチ一つ押すように、今まであった彼女への感情を覆い隠す。

そうして出来上がったのは、ただ目的を完遂するために動く生きた機械である。

即ち、


( ゚ | ゚)(――復讐を)


鬼が、動き始める。

61 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:19:18.61 ID:Ct45RthQ0
はっきり言ってしまえば、退屈な任務だった。
それは上から命令された時点で解っていたし、実際、何の間違いもなかった。

科学プラント地下二層にある無人のエリア。
特に重要性もないそこを、たった一人で警備する。
確かに単独警備など兵騎にしか出来ないことだが、だからと言ってこれはないだろう。

この程度なら小隊を一つ置いておけば済む話である。
いや、重要度的に言えば、そもそも警備する必要がない。

何せ、この施設の現状は『改修待ち』だ。
研究資料などは全て持ち出されており、残っているのは改修に使う物資だけ。
よって内部にあるのは、そこらに無造作に置いてある中型コンテナくらいだった。

盗人であろうとテロリストであろうと、この施設に価値を見出すのは少々難しいだろう。

最近のエーラニでは、こういった『戦力の過剰配置』が多発していた。
特に単独戦闘力の高い兵騎に関しては温存することをせず、
今回のように然したる重要性もない施設やエリアへの警備派遣を、積極的に行っている。

その行動を疑問視する者も多いが、一部の兵には理由が解っていた。

64 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:22:29.79 ID:Ct45RthQ0
【+  】ゞ゚)「…………」

薄暗い施設の中、そこにいる壮年の男――『オサム』もその一人だ。
胸と肩にエーラニの社章を光らせたコートを着込んでいるのは、兵騎である何よりの証。
傍には身長を超える大きさの『棺桶』を置き、寄りかかるようにして静かに佇んでいる。

そんな彼は、この一見して理不尽な任務に、しかし諦念は持ち込んでいなかった。

兵騎としてエーラニの様々な作戦に参加し、現実の断片をある程度知っている彼には解る。
これが単なる警備任務ではないことを。

【+  】ゞ゚)(さて、鬼が出るか蛇が出るか……)

つまりは網である。
エーラニにとって、この施設の存在は本当に重要ではない。
何か隠されているわけでも、秘密の会合が行われるわけでもない。

肝要なのは、ここに一人で兵騎がいるという事実。

そして、それに釣られて現れる『何者か』を仕留めるのが、自分に下された本当の任務なのだ。


65 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:25:02.00 ID:Ct45RthQ0
もちろん全て推測に過ぎない。
しかし自分の持つ情報と、この不可解な現状を照らし合わせれば、
自ずと自分の役割というものが見えてくるだけのことだ。

兵騎とは戦う存在。
ならば、それがいる場所は戦場である。

遥か昔、猛獣のいる空間に奴隷や闘士を放り込み、
命尽きるまで戦わせるという処刑法、もしくは娯楽が存在していたと聞いたことがある。
今の状況は、それに近いものがあるように思えた。

【+  】ゞ゚)(……問題は、どちらが『猛獣』なのかということか)

こうして敵を待つ自分か。
それとも、オサムを討つためにやってくる敵か。

無論、どちらであろうと負けるつもりはない。
『奴隷が勝ってはいけない』というルールは存在しないのだから。

隣に置く棺桶へ目をやる。
西洋風の縦に長い五角形を持つそれは全体を黒に染められており、
ダークなイメージを基調とする表面には、金の装飾が施されている。

戦場へ持ち込むものにしては随分と不吉に見えるが、
オサムにとっては、この棺桶こそが己の力であり、また象徴でもあった。

66 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:28:08.85 ID:Ct45RthQ0
何も問題はない。
たとえ敵が猛獣だとしても葬るだけだ。
自分が兵騎である以上、この場で負けることはない。

【+  】ゞ゚)「…………」

コートの内側で小さな震えが起きた。
入れておいた時計が、午前五時を示してバイブしたのだ。

夜が終わり、朝が来る。
明るさを得るのはまだまだ先のことだが、人々が活動を始める時間帯だ。
当然、隠密行動には向かない状況である。


……今回は引っ掛からなかった、か。


オサムは優秀な戦士である。
冷静冷徹、油断という愚行とは無縁の男だ。
今の思考も、全体の数%の中で行われた一瞬のもの。

しかし、それを狙う『猛獣』がいた。

68 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:30:32.27 ID:Ct45RthQ0
小さな音が耳に入る。
風を切る布の音だと理解した時には、


【+  】ゞ゚)「――――ッ!!?」


オサムは後頭部を掴まれ、床へと叩きつけられていた。

「……エーラニ所属の兵騎、オサムだな」

機械的な冷たい声。
同時、背中に重みが乗り、身動きがとれなくなる。

抵抗は可能だった。
腰と頭を押さえられただけでまだ両手両足が空いている。
兵騎特有の反射神経によって、完全に押さえられる前に背の筋肉に力も入れていた。

しかし、それをしようとすれば即、殺されるだろう。
上から落ちてくる声の冷徹さは、明らかにそれを示唆していた。

70 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:34:18.64 ID:Ct45RthQ0
「一つ答えろ」

額と鼻頭に床の冷たさを感じながら、無言で先を促す。
エーラニ、またはそれに類する情報を聞き出すつもりなのだろう、と予測したオサムは、
しかし次の瞬間、思いがけない質問を受けることとなった。
それは、


「両目に傷を持つ男を知っているか?」


【+  】ゞ゚)(? 両目に……?)

記憶を探るが、覚えはなかった。
焦りを含んだ無知の沈黙が伝わったのだろう。
後頭部を掴む手に力がこもる。

「そうか。 ならば組織のため。
 そして――」


「――俺の復讐の犠牲となれ」


オサムが聞いたのはそこまでであった。
次の瞬間には、振りかぶられていたもう一つの拳が落とされ、彼の頭蓋を粉砕する。

が、という音と、しゃ、という水音が重なった。

71 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:35:54.14 ID:Ct45RthQ0
それだけだ。
たったそれだけで全ての決着がついた。
兵騎と言えど、顔の上半分を失っては生きていられない。

午前五時を示す時計の震動が、ようやく止まった。



73 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:38:45.72 ID:Ct45RthQ0
( ゚ | ゚)「――――」

死体となったオサムに跨っているのは名無しであった。
トマトをぶち撒けたようになっている床から、右腕を無造作に引き抜く。
血と肉と脳しょうの混合物が、拳の先から汚い音を立てて滴り落ちていった。

無言のまま立ち上がる。
小さく痙攣するオサムの身体を靴先で転がすと、彼の胸にはエーラニの社章があった。
引き千切り、よく検めてみれば、

( ゚ | ゚)(オサム……エーラニ所属のB級兵騎、か)

企業に属する兵騎は、その能力と評価によって三種のランクに分けられている。
下から『B級』、『A級』、『S級』となり、今回のターゲットであるオサムのランクは最も下だ。

とはいえ、これが実力を示すものかと言えば微妙だった。
理由は、このランク付けの『根拠』である。

兵騎の特徴といえば、まず優れた身体能力や反射神経などが挙げられるだろうが、
稀にそれ以外の力――言うなれば『異能』――を持つ兵騎も存在する。
結局は、それを持つ者を『A級』とし、持たぬ者を『B級』と分けているだけなのだ。

つまり基本的な兵騎としての脅威は、A級もB級もさほど変わらない。
圧倒的な力を持つがために『規格外の中の規格外』、つまり『S級』と呼ばれる兵騎は別として、
どちらも容易く大量殺人や破壊を行えるし、B級がA級に勝つことも充分に可能なのだ。

74 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:41:18.43 ID:Ct45RthQ0
そういう意味で言えば、単独戦を想定していたであろう今回、単なるB級兵騎を置いていたとは考えにくい。
おそらくオサムは、閉鎖空間、もしくは迎撃に関してA級レベルの力を持った兵騎だったのだろう。

戦術としては不安定であったが、それでも奇襲を選んだのは正解だったようだ。

当然、貴族中心であるナドラの一員として褒められた手段ではないことなど、
元から貴族について何の感慨も持たない男にとって、まったくどうでも良いことである。

『……殺したのか?』

耳元からクーの囁くような声が聞こえたのは、オサムの社章を懐に入れた時だった。
スイッチは入れっ放しだったため、全ての音や声は向こうにも届いていただろう。

( ゚ | ゚)「聞いていたはずだ。 人が死ぬ音を」

『…………』

半年ほど前に『仕事』の内容は教えている。
ただ、その瞬間を聞かせたのは今日が初めてだった。
おそらく人生初であろう人の死を、間接的にとはいえ前にした彼女は、

『……は、ぁ』

と、小さく、しかし深い息を吐く。


77 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 21:44:04.35 ID:Ct45RthQ0
『人が死んだ……私の関与するところで、人が……。
 あぁ、いや、違うな……これは……そう、違う……』

( ゚ | ゚)「…………」

『……一年前、貴方は私に言ったよな?
 記憶を失い、何もかもが解らない私に対して、貴方は――』

覚えている。
忘れるはずがない。
そのために、今ここにいるのだから。


『――私を生かしているのは善意ではなく、復讐のためだ、と』


( ゚ | ゚)「……そうだ」

『だから……違うんだ。 その延長で殺したというのなら。
 それはきっと、私が殺したも同然だ……そう、私が死を生み、与えたんだな……?』

段々とクーの言葉が感情を失っていく。
またか、と男は思った。
彼女は『死』という概念について、大きな関心を示すことが度々あった。

失っているはずの記憶がそれをさせるのだろうか。
いや、以前の彼女に、関心の起因となる事柄はなかったはずだ。

81 名前: ◆BYUt189CYA [] 投稿日:2010/04/17(土) 22:08:32.45 ID:Ct45RthQ0
( ゚ | ゚)(……まぁ、いい)

彼女の問題は彼女のもの。
たとえ狂おうとも、命さえあるのなら名無しにとってどうでも良いことだ。
それよりも気になることが一つあった。

( ゚ | ゚)(このオサムという兵騎……明らかに敵対者を待っていた。
     やはり網を張っていたということだろうが、果たしてナドラはこれを知っていたのか)

どちらかによって、考えが少し変わることとなる。

フォックスは、これからのナドラの動きを見て勝手に想像しろ、と言った。
この名無しの疑問も、彼から与えられた判断の材料なのだろうか。
だとすれば、何を伝えたいのか。

( ゚ | ゚)「…………」

近い内、都市VIPはナドラの起こす大きな流れに巻き込まれるだろう。
その中で果たして、自分は目的を完遂することが出来るのか。

( ゚ | ゚)(愚問だな)

問うまでもない。
そのために生き、動きているのだ。
人を殺し、欺き、利用しながら。

それがたとえ、自分のためだけの独善的な復讐であったとしても。
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